気のない台詞に笑え偶像

蛋白質の焦げる匂いがする。
髪などではなく同じ成分で出来てはいるがこれは皮膚。
鶏肉とは違ったまったく旨そうと思えないただ焦げ、だけが
それなりに一人一人のスペースが確保されている快適なワゴンの後部座席から
漂って、カーテンを物ともせずに助手席まで満たし始める。
己の愛車と自己の精神の安全を保つためにいつもならば
すぐさま止めに入る、最近ではもうたまに涙声混じりになる
このワゴンの主にして運転手で足の渡草は昼食を買いに出ていて不在だ。
今回はいったい何のネタを実践しているのか、恐らくあまりにも
作品嗜好傾向がことなるので仕切りのカーテンを取り払って
平然と行われている拷問または仕置きをしっかりと見てもわからない確率のほうが高い。
殴り合いは嫌いではないがこういったことは嫌いだ。
やっている二人―――遊馬崎と狩沢については嫌いではなく好きではあるが、
嫌うそんな行為に混じりたいとも思わないし実のところ、は止めたいとも思っていない。
そう、見せているだけなのだ。
口に常備されている布製の丈夫なガムテープを巻かれているであろう、
今日のターゲットがくぐもった悲鳴をあげているが
そもそも無意味にやるわけがなく自業自得なのだろうから、
二人に出会ってしまったことを気の毒にと感じなくもないが、いい薬だ。
つけて治る可能性は別で、またほんものの特に精神系の病気を患ってしまう可能性の
ほうがふつうか。






「おい、そのへんにしとけ。煙が充満する。」





布一枚のしきりの無効からはぶーたれる二人の声と。
一人の安堵の息を呑む、小さな喉の鳴る音。
えー、とつまらなそうな声をあげても苦笑を浮かべているのだと
予想がつく付き合いの長さでありながらもどかしさを感じる。








大概、オレも嗜虐心が強い。







のか。
と、諦念を込めて諌める心中は。
ただたんにつまらないのだ。
わざとらしく仕切りをレールにそって開くなんて、煙が充満するからでは
出来ない。
車窓を開けると逃げていく少しの煙と、その煙に気づいて歩みが速く
と言うよりも駆け出した運転手の姿をみながら。
さらにぶーたれるであろうと二人とその二人の低めの沸点をあげる
今日の被害者の自由〔解放〕への喜ぶ様子とさらにさらに
おもちゃを取り上げられてすねる子供がとるであろう表情、
それから浮かべるであろう苦笑に動悸が高まる。












できれば、ずっとずっと笑っていてくれ。














俺の隣でと言ったらまるでプロポーズみたいだと。
煙にむせながら声を立てず笑った。
悪趣味だと自覚しながら。
















気のない台詞に笑え偶像
　　　　　　　　　　　　　（困らせるのは駆け引きだろう？）